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十二指腸潰瘍

Disease

十二指腸潰瘍について

十二指腸潰瘍は、胃から続く小腸の最初の部分である十二指腸の粘膜に生じる潰瘍性疾患です。胃潰瘍と並んで消化性潰瘍の代表的な病気として知られており、多くの方が経験される可能性のある身近な疾患といえるでしょう。

十二指腸は胃酸の影響を強く受ける部位であるため、胃酸の分泌バランスが崩れたり、粘膜を保護する機能が低下したりすると潰瘍が形成されやすくなります。現代社会においては、働き盛りの年代を中心に幅広い世代で発症が確認されており、適切な診断と治療が重要な疾患です。

症状

十二指腸潰瘍の症状は多岐にわたりますが、最も特徴的なのは空腹時に生じる上腹部の痛みです。この痛みは「空腹時痛」と呼ばれ、食事をとることで一時的に和らぐという特徴があります。

典型的な痛みの特徴

空腹時痛は、胃の中が空になって胃酸の濃度が高くなることで、十二指腸の潰瘍部位により強い刺激が加わることによって生じます。多くの患者さんは、みぞおちから右側にかけての鈍い痛みや灼熱感を訴えられます。この痛みは食事をとることで胃酸が薄まり、一時的に軽減されることが多いのも特徴の一つです。

夜間痛の出現

十二指腸潰瘍では、夜間から早朝にかけて痛みが強くなることがよくあります。これは夜間に胃酸の分泌が活発になることや、空腹状態が長時間続くことが関係しています。睡眠中に痛みで目が覚めてしまう方も少なくありません。

消化器症状の多様性

痛み以外にも、吐き気や嘔吐、胸やけ、げっぷ、腹部の膨満感などの症状が現れることがあります。また、食欲不振や体重減少を伴う場合もあり、日常生活に大きな影響を与えることがあります。

重篤な症状への注意

潰瘍が深くなると出血を起こすことがあり、黒色便(タール便)や吐血といった症状が現れる場合があります。またさらに重症化すると十二指腸穿孔を発症することがあり、これらの症状が見られた場合は、緊急性の高い状態として迅速な医療機関での対応が必要になります。

原因

十二指腸潰瘍の発症には複数の要因が関与していますが、近年の研究により主要な原因が明らかになってきています。

ピロリ菌感染の影響

ヘリコバクター・ピロリ菌(ピロリ菌)の感染は、十二指腸潰瘍の最も重要な原因の一つとして位置づけられています。この細菌は胃の粘膜に住み着き、慢性的な炎症を引き起こすことで潰瘍の形成に関与します。ピロリ菌感染者では、非感染者と比較して十二指腸潰瘍の発症リスクが大幅に高くなることが知られています。

NSAIDsによる薬剤性要因

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の長期使用も十二指腸潰瘍の重要な原因となります。これらの薬剤は痛みや炎症を抑える効果がある一方で、胃腸の粘膜を保護するプロスタグランジンという物質の産生を抑制してしまい、結果として潰瘍を形成しやすくなります。

ストレスと生活習慣の関与

精神的なストレスや不規則な生活習慣も十二指腸潰瘍の発症に関与することがあります。強いストレスは胃酸の分泌を増加させ、同時に粘膜の抵抗力を低下させる可能性があります。また、喫煙や過度の飲酒、不規則な食事なども潰瘍の形成を促進する要因となり得ます。

その他の関連要因

遺伝的素因、免疫機能の低下、他の疾患に伴う二次的な要因なども十二指腸潰瘍の発症に影響することがあります。また、急性期のストレス(手術、重篤な疾患、外傷など)によって生じる急性潰瘍も存在します。

検査・診断

十二指腸潰瘍の正確な診断には、適切な検査による確認が不可欠です。症状だけでは他の消化器疾患との鑑別が困難な場合も多いため、専門的な検査を組み合わせて診断を進めていきます。

上部消化管内視鏡検査の重要性

上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)は、十二指腸潰瘍の診断において最も確実で詳細な情報を得られる検査方法です。内視鏡により直接十二指腸の状態を観察することで、潰瘍の位置、大きさ、深さ、周囲の炎症の程度などを正確に把握することができます。

現在では経鼻内視鏡の普及により、以前と比べて患者さんの負担が軽減され、検査を受けやすくなっています。また、必要に応じて組織の採取も可能で、悪性疾患の除外診断にも重要な役割を果たしています。

ピロリ菌検査の実施

ピロリ菌感染の有無を調べることは、十二指腸潰瘍の治療方針を決定する上で極めて重要です。検査方法には、血液や尿による抗体検査、便中抗原検査、尿素呼気試験、内視鏡検査時の組織検査などがあります。

それぞれの検査には特徴があり、患者さんの状況や治療の段階に応じて最適な方法を選択します。特に除菌治療後の効果判定には、尿素呼気試験や便中抗原検査が推奨されています。

画像診断の活用

バリウムを用いた上部消化管造影検査も、十二指腸潰瘍の診断に用いられることがあります。この検査では、造影剤によって消化管の形態を詳細に観察することができ、内視鏡検査が困難な場合や、より広範囲の観察が必要な場合に有用です。

血液検査による全身状態の把握

血液検査では、貧血の有無、炎症反応、肝機能、腎機能などを調べることで、潰瘍による出血や全身への影響を評価します。また、感染症の有無や栄養状態の確認も重要な情報となります。

治療法

十二指腸潰瘍の治療は、原因に応じた適切なアプローチを選択することが重要です。現在では効果的な治療法が確立されており、多くの患者さんで良好な治療成績が期待できます。

プロトンポンプ阻害薬による酸分泌抑制

プロトンポンプ阻害薬(PPI)は、胃酸の分泌を強力に抑制する薬剤で、十二指腸潰瘍治療の中心的な役割を担っています。胃酸の分泌を効果的に抑えることで、潰瘍部位への刺激を軽減し、粘膜の修復を促進します。

PPIには複数の種類があり、患者さんの症状や他の薬剤との相互作用を考慮して最適なものを選択します。一般的に4週間から8週間程度の投与で潰瘍の治癒が期待できます。

H2受容体拮抗薬の活用

H2受容体拮抗薬は、胃酸分泌の調節に関わるヒスタミンH2受容体を阻害することで酸分泌を抑制します。PPIと比較すると効果は穏やかですが、副作用が少なく長期使用に適している場合があります。

ピロリ菌除菌療法の実施

ピロリ菌感染が確認された十二指腸潰瘍では、除菌療法が治療の基本となります。除菌療法は、プロトンポンプ阻害薬と2種類の抗生物質を組み合わせた三剤併用療法が標準的に行われています。

一次除菌で効果が不十分な場合は、抗生物質の組み合わせを変更した二次除菌を実施します。除菌成功率は一次除菌で約80-90%、二次除菌まで含めると95%以上の高い成功率が報告されています。

粘膜保護薬の併用

スクラルファートやレバミピドなどの粘膜保護薬は、潰瘍部位の修復を促進し、再発の予防にも効果があります。これらの薬剤は、酸分泌抑制薬と併用することでより効果的な治療が期待できます。

亜鉛補充薬の併用

十二指腸潰瘍の早期治癒に寄与する可能性が指摘されており薬剤の保険適応があります。機序としては粘膜修復の促進作用、活性酸素を抑えることによる抗酸化作用、胃酸分泌の調整作用などが挙げられます。

よくある質問

十二指腸潰瘍は完治しますか?

適切な治療により、十二指腸潰瘍は完治が期待できる疾患です。特にピロリ菌が原因の場合、除菌治療の成功により再発率を大幅に低下させることができます。薬物療法により潰瘍が治癒した後も、原因に応じた継続的な管理により良好な予後が期待できます。

治療期間はどのくらいかかりますか?

治療期間は潰瘍の大きさや原因によって異なりますが、一般的には4週間から8週間程度で潰瘍の治癒が期待できます。ピロリ菌除菌が必要な場合は、除菌治療期間(1週間)に加えて、除菌効果の判定(治療終了から4週間後)まで含めた期間が必要になります。

食事制限はいつまで続けるのですか?

急性期の厳格な食事制限は、症状の改善とともに段階的に緩和していきます。潰瘍が治癒すれば、基本的には通常の食事に戻ることができますが、香辛料の多い食品やアルコールなどは、個人の体質に応じて注意を続けることが望ましい場合があります。

薬は一生飲み続ける必要がありますか?

ピロリ菌除菌が成功し、潰瘍が治癒すれば、基本的には長期間の薬物治療は不要です。ただし、NSAIDsの使用が必要な方や、胃酸分泌が多い体質の方では、予防的な薬物療法を継続する場合があります。

再発の可能性はありますか?

ピロリ菌除菌が成功した場合、十二指腸潰瘍の再発率は大幅に低下します。一方、NSAIDsの継続使用や強いストレス状態が続く場合は、再発のリスクが高くなる可能性があります。定期的な検査と生活習慣の管理により、再発の予防が可能です。