胃潰瘍

胃潰瘍とは、胃の粘膜が深く傷つき、組織がただれてしまう疾患です。単なる胃炎とは異なり、粘膜の表面だけでなく、その下の層まで損傷が及ぶため、強い痛みや出血を伴うことがあります。胃潰瘍は、胃酸やペプシンといった消化液が自らの粘膜を消化してしまうことで発症します。

その背景には、ピロリ菌感染や非ステロイド性抗炎症薬（NSAIDs）の常用、過度なストレス、喫煙、アルコール摂取などが関係しているとされています。生活習慣や体質と密接に関連していることから、再発しやすい病気でもあります。したがって、単なる「胃の痛み」として放置せず、医学的に正しく診断し、適切に対応することが求められます。

胃潰瘍によっておこる症状 

胃潰瘍があると、食後または空腹時にみぞおちのあたりに鈍く痛む感覚が出ることが多いです。この痛みは食事によって和らぐこともありますが、逆に悪化するケースもあります。また、胸焼けや胃もたれ、げっぷなど、消化器全般に関連した不快感が現れることもあります。

さらに進行すると、胃の中で出血が起き、黒色便（タール便）や吐血が見られることもあります。こうした出血を伴う潰瘍は、貧血を引き起こし、倦怠感や息切れといった全身症状にもつながるため、早期の対応が重要です。

痛みがないタイプの胃潰瘍もあるため、症状がないからといって安心せず、定期的な検査を受けることが予防につながります。

胃潰瘍の検査方法

胃潰瘍の確定診断には、内視鏡（胃カメラ）による直接観察が最も有効です。内視鏡を使って胃の中を詳しく観察することで、潰瘍の場所や大きさ、出血の有無、さらにはがんとの見分けも行うことができます。疑わしい病変が見られた場合には、その組織を採取して病理検査を行い、悪性でないことを確認します。

また、ピロリ菌の感染があるかどうかを調べるために、尿素呼気試験や血液検査、便中抗原検査などを併用することもあります。ピロリ菌は胃潰瘍の大きな原因のひとつであり、感染の有無を明らかにすることが、根本的な治療計画の出発点となります。

場合によっては、胃酸の分泌量を評価する検査や、NSAIDsの使用状況を確認する問診も行われます。

胃潰瘍の治療 

胃潰瘍の治療の中心は、胃酸の分泌を抑える薬剤です。代表的なものとして、プロトンポンプ阻害薬（PPI）やカリウム競合型アシッドブロッカー（P-CAB）があり、これらは胃の中の酸性度を下げることで、潰瘍の治癒を促進します。

もしピロリ菌の感染が確認された場合は、除菌治療を行います。これは抗菌薬と酸分泌抑制薬を一定期間併用することで、胃の環境を健全に戻し、再発を防ぐ目的があります。除菌後には、内視鏡で効果を確認することが一般的です。

また、NSAIDsを服用している場合には、可能であれば薬の変更や併用薬の追加によって胃粘膜への負担を軽減することが求められます。加えて、喫煙や飲酒といった生活習慣を見直すことも、潰瘍の再発を予防するうえで欠かせません。

胃潰瘍のフォローアップ

治療が終わったからといって、安心して放置してしまうのは避けるべきです。胃潰瘍は再発しやすい病気のひとつであるため、定期的な内視鏡検査によって胃の状態をモニタリングすることが推奨されます。特に、ピロリ菌除菌後も胃粘膜の萎縮が残っている場合には、長期的な観察が必要です。

再発防止には、ストレス管理やバランスの取れた食事、過剰な刺激物（辛い食べ物やコーヒー、アルコールなど）を避ける生活が基本となります。また、処方された薬は自己判断で中止せず、医師の指示に従って服用を続けることが大切です。

胃潰瘍は、適切な治療と生活の見直しによって予防・改善が可能な病気です。症状がなくても定期的にチェックを受けることが、健やかな胃の維持につながります。